やれやれな話
小学生か中学生くらいだったかな。
週末になるとバスに乗っていとこの家に泊まりに行くのがお決まりだった。
乗車時間は30分くらい。
で、いとこの家から帰りのバスに乗ってた時のやれやれな話。
ホント、適当な人間てその辺に溢れてるんだなと思った。
当たり前だけど、次の停留所が近づくと、その停留所に到着する前に、停留所名を乗客に伝える車内アナウンスとか運転手アナウンスがあるよね。
後ろから見たことあるけど、運転手がボタンを押すと車内アナウンスが流れるみたい。
でね、世の中には適当っつーかやる気ないっつーか、何考えて仕事してんのかと思うような奴がいるのよ。
運転手はいわゆる"じじい"。
小さい頃だったから余計そう見えたのかもしれないけど、誰が見ても50は超えてたと思う。
何度も乗ってると、外の景色見れば次の停留所名がわかるじゃない。
なんだけど、その日はそれが一致しなかった。
っていうのも、この運転手が車内アナウンスするタイミング。
例えば、停留所A、停留所B、停留所Cってあったら、Aの到着前にAをアナウンス、
そしてAを過ぎたらBのアナウンス、Bを過ぎたらCのアナウンスをするよね。
なのにこいつ、A、B、Cを過ぎてからまとめて連続でそれぞれのアナウンスを流したりするんだ。
あとは、Aを通り過ぎる瞬間にAのアナウンス、Bを通り過ぎる瞬間にBをアナウンス、みたいなこともしたりする。
それじゃおせーよっ。
家まではいくつかの停留所があるけど、大体こんな感じのパターンが繰り返された。
実はこれ、気持ちはわからなくもない。
なぜなら、このバスの乗客のほとんどが最終バスターミナルまで降車ボタンを押さないから。
家の停留所から10分程度で最終バスターミナルだが、事実、家までの途中にある停留所で降りる人はまれで、私が降りる停留所も私以外に降りる人はまれ。
いとこと一緒にいとこの家から乗って、最終バスターミナルに行くことが何度かあったけど、そのときも途中で降りる人はまれ。
そう、途中で降車する私こそがマイノリティなのだ。
と、気持ちはわかるが、それはそれ、これはこれ。
本来遂行すべき職務を全うせずして、何が社会人か。
で、そうこうのうちに、私の降りる停留所の一つ前の停留所がアナウンスされた。
私の降りる停留所をX、その一つ前の停留所をYとしよう。
どうする。
このまま行くと、Xのアナウンスが流れる頃には、きっとすでにXを置き去りにしてるに違いない。
なら対応策は一つ。
今Yを通り過ぎ、Yがアナウンスされた。
ここだ。
ここで降車ボタンを押す。
今アナウンスされているのはYだ。
一見すると私がYで降りることを望んでいるように見えるだろう。
だが、実際に私が降りたいのはXであり、Xにはまだ到着していないため無問題。
「プィポ~ン」
降車ボタンの音が響く。
運転手、慌てながら焦った口調で私に
「あっ!? たっ!! Yで降りるっ?」
と聞く。
そう、私は運転手の真後ろの席にポジショニングしていたのだ。
そこから、ず~っとこのアホな運転手の所作を随時観察していた。
そして、運転手の口調とは裏腹に私は落ち着いた口調で告げる。
「いや、次のXで停めれば良い」
運転手は九死に一生を得たかのような表情で言う。
「OK. Boss」
かくして、私は無事Xで降りることができた。
家に帰ってこの話をしたかどうかの記憶は定かでない。
めくりめくる幼少時代の日常において、ほんの些細なことに過ぎなかったのだろう。
今だったら、確実にバス会社に文句言ってるよね!!
ていうか、中学くらいまでは年に何度もバスに乗ってたんだけど、こんなアホな運転手に当たったのこの一回きりなんだよね。
どうか、どっかのタイミングで他の乗客からの苦情で問題になってクビになってることを、切に、切に願う。